これまで企業理論(企業の存在と市場との境界を説明する理論)と言えば、コースやウィリアムソンによる取引費用理論と、90年代に脚光を浴びたケーパビリティやナレッジなどのリソースに基づく視点(RBV: リソースベースドビュー)が主流でしたが、1990年代の終わり頃から企業を「リアルオプションのプール」として捉える考え方が研究の俎上にのぼっています。戦略論の研究者であるコペンハーゲンビジネススクールのFossの論文が参考になります。
 これまでは「取引の属性によって一義的に決定する取引費用」や、「組織に内部化しなければ蓄えられないタイプのリソース(インタンジブルなリソース)を排他的に利用する」、という視点で「内部化・外部化」「企業の境界」の議論がなされ、極端に言えばいわば市場か企業かの「二者択一」の世界でした。
 ところが、不確実性が高まると、すべてに対してリスクを自前でとることに企業は耐えきれなくなり、ダウンサイドリスクをゼロにするリアルオプションの価値が出てくるわけです。Fossは、「リアルオプションのレンズを通して見ることにより、外部と内部に峻別できない中間の形態こそが、リアルオプションの創造に最も効果的である可能性がある」と指摘しています。つまり梅田さんの言うコーポレートベンチャリングのリアルオプション性と非常に近いことを指摘しています。