戦略と組織の共進化

共進化:二種以上の生物が、寄生や共生、捕食や競争関係などの相互作用を通じて進化すること。虫媒花の花の構造と、受粉昆虫の口器の形態の進化など。相互進化。(大辞泉より)

 「組織は戦略に従う」、「戦略は組織に従う」という正反対の2つの説があります。「組織は〜」の方は古典的な名著として知られていますので、お読みになられた方もいらっしゃるのではないかと思います。どちらもある一面においては正しく現実の事象を説明できるのでしょうが、この2説の優劣が本当に大切なことではないように感じます。むしろ大切なのは、相互の関係であり、いかにお互いを進化させていくかという「共進化」にあるのではないでしょうか。

 戦略の実行によって組織能力が蓄積され、組織能力は新たな戦略オプションの行使を可能にする、こうした「共進化」のモデルを、意図的にデザインできる能力が今の日本企業に求められているように感じます。

 日本企業は、コスト削減を中心とした効率化戦略から、成長戦略へとシフトしており、マクロな経済環境の好転もあって、軒並み強気の読みをしていますが、ここに落とし穴はないのでしょうか。成長戦略の成功確率は効率化戦略のそれと比べてかなり低いはずで、必ずしも楽観できるものではないはずです。
成長戦略のオプションは様々なものがあるものの、成功確率を上げていくために、ここでは二つのアプローチを述べたいと思います。

 一つは、経験や学習効果を最大限に活用することで成功確率をあげるアプローチ、すなわち「隣接領域への展開」です。そのためには、展開の必勝パターンを経験や学習といった無形資産の中から抽出し、法則化し、厳格に実践していく活動が必要となります。さらに、経験や学習の効果をより働かせるためには、
・戦略や「必勝パターン」のわかりやすい明示
・不確実性を減らす工夫(マネジメントの焦点の絞込み)
をいかに効果的に行っていくかがポイントとなるでしょう。

 もう一つのアプローチは、「顧客ニーズをベースとした組織再編」です。顧客の便益を満たすためには、製品に付随する周辺領域の高付加価値のサービスを同時に提供(クロスセル)したり、複数の製品領域を融合することで新たな製品領域を創出したりするものです。これは多くの電機メーカーで既に取り入れられています。既存製品を基点とし、新たな顧客ニーズへの対応を行うことで、成功確率を高めることができます。
 これら二つのアプローチは、戦略と組織の「共進化」の典型的な例ではな
いかと思います。さて、皆さんの所属されている組織ではどのような「共進
化」のシナリオが描けるのでしょうか。
マーサー・メールマガジン 第193号     2004年7月30日