予測メカニズム

 脳は常に物事を予測している。人間はその予測に基づいて行動し、様々な経験から得られた感覚的入力情報が脳に返送され、脳がまた新たな予測を立てる。一方、コンピュータは多くの場合、最も最近の物事を処理しており、予測はほとんど行なわない。

我々の脳はコンピュータとは全く異なる原理に基づいて動いています。しかし、だからと言ってコンピュータ上で脳を模倣できないというわけではありません。ただ、そのためにはまず脳の働きを理解しなくてはならないでしょう。(人工知能の)数々の失敗の原因は、インプットがあると、その後にアウトプットもあるという発想です。つまり、システムにある情報を入力し、それに対してどのようなアウトプットがなされるかによって、そのシステムが成功か否かが決する、と考えられていたせいです。

彼らは、思考とは何か、知覚とは何か、物事を理解するとはどういう意味かについての考えを持っていなかったのです。コンピュータと脳の最大の概念的相違点は予測能力の有無です。脳に関して言えば、あるインプットに対するアウトプットとは、脳内部の予測のメカニズムを意味します。簡単に言えば、「おい、行動を起こしたり、何かをする前には確認作業が必要だ。私は今何が起きているかを把握しているのか」と自問自答するわけです。(予測メカニズムが)成功するか否かは、正しい行動を取れるかどうかではなく、(心の中で未来について)実際に計算し、次に何が起きるかを予測できるかどうかで決まります。

 予測は、コンピューターサイエンスからみれば新しい見方なのであろうが、心理学からすれば存在だけは明確になっていた古いテーマであろう。ただし、存在を理解することとそのメカニズムを解明することは大きな隔たりがある。この話は予測という心理学上のブラックボックスコンピュータサイエンスで解くという面白い試みだと思う。